研究活動 がん研究室
室長 肱岡 泰三
胃癌
上皮性悪性腫瘍が間葉系細胞に形態学的に変化することにより転移・浸潤能を獲得するという現象が認められており、この現象は上皮間葉移行(EMT)という名で呼ばれておりTGF-βなどのサイトカインなどによって誘導されている。このシグナル経路としてsnailとE-cadherinが重要とされる。外科において、外科的切除された胃癌の標本をホルマリン固定の後、パラフィン包埋し、この材料を用いてE-cadherinに関しては免疫組織染色で、Snailに関しては、先にシークエンシングしたhuman SNAILをprobeとしてin situ hybridizationを行い、その発現をみている。これらの発現と転移との関連性を病理組織学的検査の結果と比較し、胃癌患者における予後の予測が可能かどうかを現在検討しているところである。
肝細胞癌
肝細胞癌は、他の癌と異なり、進行した慢性肝疾患を背景に発生するため初発肝癌を根治できたとしても異時性多中心性発癌により高率に再発するという特徴を有している。消化器科では、初発肝細胞癌に対しラジオ波焼灼療法を用いて局所的根治治療を行い、その予後と再発について検討を重ねている。今年度は①ラジオ波焼灼療法にて根治治療を施行した初発高分化、非高分化肝細胞癌患者の再発率と予後、②ラジオ波焼灼療法にて根治治療を施行した初発肝細胞癌患者の予後と再発につき検討した。
研究および発表内容を概説する。2001年4月-2005年9月までに入院したラジオ波焼灼療法にて根治治療した初発肝細胞癌の81例を対象とした。その内訳は、男性56例女性25例、平均年齢71±8歳、単発68例多発13例、StageI46例,II27例,III8例、Child A63例、B16例、C2例であった。81例中16例が、画像検査にて早期、腫瘍濃染を認めず病理組織的に高分化肝細胞癌でこの群を高分化群、残りの65例を非高分化群としても比較検討した。局所再発率は、1年後;症例全体1.2%(高分化型0%:非高分化型1.6%)、3年後;全体11.3%(14.3%:9.4%)、5年後;全体11.3%(14.3%:9.4%)であった。異所再発率は、1年後;全体16.8%(19.6%:16.2%)、3年後;全体52.0%(43.2%:55.7%)、5年後;全体73.8%(43.2%:77.8%)であった。局所再発率と異所再発率では、総ビリルビン1.5以上、血小板10万未満、初発時に多発している例に異所再発率が有意に高かった(P=0.02,P=0.04、P=0.01)。HCV感染例も異所再発率が高かった(P=0.08)。さらに、高分化型と非高分化型の組織型による2群間には有意な差は認めなかった。しかし生存率は、初発時高分化型が5年生存率100%に対して、非高分化型は、1年95.3%、3年90.2%、5年80.9%であり差が認められた。RFAによる初発の肝細胞癌の予後は良好であるが、HCV感染で、血小板10万未満、総ビリルビン値1.5以上で初発時に多発している群の異所再発率が高いことを明らかにし、異所再発高率群の治療後の厳重な経過観察を要することを示唆する結果であった。また、予後の良い高分化型でも異所再発率が1年19.6%も認められる事から、積極的に局所治療を行っていく必要があることもこれらの結果より示唆された。
また、肝癌診療ガイドラインの改訂にあたって、肝細胞癌治療アルゴリズムに、肝細胞癌の特徴である再発予測因子(総ビリルビン1.5以上、血小板10万未満)を追加することを肝臓学会東部会のシンポジウムにおいて提言した。
血液腫瘍
近年、悪性リンパ腫に対する診断・治療の進歩はめざましいものがある。血液内科では、新しい治療戦略および既存の治療法をより効率よく安全に施行するための戦略を考案するために、大阪リンパ腫研究会(OLSG)に発足時より参加し、単一施設では経験できない多種多数の症例に関する知見を得ている。現時点で3000例以上の症例が登録された。病理・免疫学的解析により、近畿地区での悪性リンパ腫各組織型の頻度が明らかとなり、論文・学会で報告した。臨床データでは、各組織型の年齢分布、治療法の選択、抗腫瘍剤の使用量、治療成績について解析がなされ、学会で報告した。各種リンパ腫に対する多施設参加の臨床試験として当院が提案したものを含め5つのプロトコールが採択され進行中である。今までの成果をふまえ、OLSG臨床事務局を当院血液内科におき、プロトコール及びデータの一括管理・解析を行っている。
Wilm’s tumor gene(WT-1)に対するペプチドワクチンについては、阪大病院での第I相試験の結果を受け、当院でも第II相試験の実施が倫理委員会で承認された。現在まで悪性リンパ腫1例、多発性骨髄腫1例に対して治療を行なった。さらにもう1例準備中である。引き続き当院で治療中の悪性リンパ腫の症例を対象に腫瘍細胞でのWT1遺伝子の発現を検討中である。適格症例があれば積極的に臨床試験を進めたい。

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