緩和医療における鎮静とは苦痛を緩和させることを目的としています。しかし、治療困難な苦痛には意識を保ったままで身体症状を緩和することは難しくなる場合が少なくありません。
苦痛緩和のための鎮静に関するガイドライン(日本緩和医療学会2005)では、20〜35%の終末期がん患者には鎮静が必要であると見積もっています。死亡前48時間の状態を照らし合わせながら鎮静判断をおこなう必要があります。
我が国における心理実存的苦痛に対する鎮静においては精神的苦痛に対する一定の評価方法・対処方法はまだ確立しておらず、精神的苦痛のみで鎮静の適応になる場合は慎重に判断する必要があります。
また、耐え難い苦痛とは、患者本人の主観的な苦痛です。訴えが合理的で継続的なものの場合は検討していく方向で進められます。
鎮静の効果において、好ましい効果は治療困難なあらゆる苦痛の緩和が図れることですが、好ましくない効果としては家族とのコミュニケーションができなくなることがあります。そのことからも段階的に検討しそれに応じた鎮静をおこなう必要があります。また、当然のことながら、積極的安楽死と鎮静は違います。その違いをきちんと理解して慎重に実践する必要があるのです。
鎮静の分類は、「深い鎮静と浅い鎮静」「持続的鎮静と間欠的鎮静」「一時的鎮静と副次的鎮静」「終末期鎮静と非終末期鎮静」といったように多角的・複合的に捉えられ、患者の状態をチームで分析し鎮静の目的を明確にしてから、目的に合った薬剤投与をおこなう必要があります。
鎮静後の家族の満足度は、78%の遺族は満足しておられましたが、強い精神的苦痛を体験した家族も25%おられました。やはり鎮静前の家族のケアとしては、患者と家族の意志をまとめること、鎮静中の家族のケアとしては、愛する人の家族としての役割と存在している意味を守ることが重要となってくるのです。
鎮静をおこなう要件としては、1)意図 2)自立性 3)相応性であり、特に一人の医師のみの独断で鎮静が行われないような安易な鎮静の歯止めは、チーム医療としておこなっていく必要があります。なぜなら、鎮静は単なる治療行為だけではなく全人的な患者・家族のケアを含めた医療行為であるからです。
最期にDame Cicely Saundersの言葉をご紹介します。
「人がいかに死ぬかということは、残される家族の記憶の中にとどまり続ける。私たちは最期の苦痛の性質とその対処について十分に知る必要がある。最期の数時間に起こったことが、残される家族の心の癒しにも悲嘆の回復の妨げにもなる。」
残された家族の心に「がんはやはり恐ろしい病気なんだ。苦しみながら死んでいくんだ。」という恐怖感を残してはいけません。そのような思いをさせないためにも個々の患者のケアについてスタッフで話し合いを持ち、パターン化しないように注意し、緩和ケアをおこなっていく必要があるのです。